『if』

 『もしも』という言葉は、一瞬一瞬の瞬間にある言葉。





もしあの時…






 イザークがふと夜中に目を覚ますと、横に寝ていたはずの人物がベットの上にいなかった。

 シーツに手を這わせて確認してみれば、そこは冷たい。

 イザークはそれを確認して、ため息を1つついて起き上がる。










 自分のベットに誰かがいることを、数年前のイザークなら、絶対に否定してみせただろう。
 誰かが横にいるのに、寝ることなんて出来ないと思っていたからだ。

 しかし、今、イザークは毎晩横で一緒に寝ている。

 初めは別々に住んでいたので、一緒に寝る事はなかった。
 しかし、一緒にいる時間が増えれば増えるほど、離したくない想いが募った。





 1日だけが1週間になり、やがて1ヶ月になるのに、そう時間はかからなかった。

 そうして一緒に住むようになり、いつの間にか一緒に寝るようになっていたのだ。










 イザークはベットの向こうを覗き、探していた人物を見つける。

「おい」

 声をかけても、ベットの下でぐっすりと熟睡している人物は目を覚まさない。

 イザークは少し微笑み、乱れた髪を、そっと優しく直してやる。





 2人が出会ったのは運命だったのだろうか?





 敵同士だった2人は、戦争が終わるまで顔を合わせることなどなかったし、あのまま、仕事を引き受けなければ、出会う事など一生なかっただろう。

 いや、それより、何度か戦ったあの日々に、もしかすれば、自分が殺していたかもしれない相手だったのだ。

 たくさんの「もしも」がある。

 その中で2人は出会い、惹かれあった。





 それは、どれほどの確率だったのだろうか?










 愛しいと思う相手がいま目の前にいて、すやすやと寝息をたてている。
 イザークが一番好きな、吸い込まれそうなほど深い紫水晶の瞳は、しっかりと閉じられていた。

 初めて出会った頃から年齢を重ね。
 大人の男性らしい精悍さも出てきたが、寝顔は無邪気そのものだ。





 『もしも』出会わなかったら、自分の横には誰もいなかっただろう。

 それが言い切れるほど、イザークは溺れている自分を自覚していた。










「・・・ったく、よく落ちる」

 そう苦笑して、イザークは下で寝ている人物を抱き起こし、ベットの上に寝かす。

「こんな図体のデカイ、いかつい男なんかご免だな」

 苦笑して、寒くないように布団をかけ直してやる。

「・・・だが、お前を選んだのは俺なんだ、キラ。それは何度同じ時が来ても変わらない『もしも』なんだ」

 そう言いながら、イザークはキラのまぶたにキスを落とす。










『if』

 それは一瞬の別世界。

 しかし、選んだのは紛れもなく自分。










 もしもあの時・・・。










 それはすべての始まりと終わり。

 愛の始まりで終焉。





 イザークはやっとキラの横に入り込み、そっと起こさないようにキラを抱きしめた。

 今がすべてだと、キラの温もりを感じ、イザークは眠りにつくのだった・・・・・・。










END

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 もしもあの時・・・って、後悔の時に使う事が多いいようなので、後悔ではなく、仮定の意味で使ってみました。
 自分の横にいる相手と出会わなかったとしたら・・・。
 そんな事をイザークに考えてもらいました。
(2004/01/27)