完全週休2日制と言っても、どちらとも仕事好き。
仕事が残っているのに、仕事を休むわけがない。
でも、今日から2日間、2人ともめずらしく仕事は残しておらず、連続の休日だった。
お休みが2日間もある時は、どこかへ出かけることはせず、ゆっくり2人で家の中で過ごすのが習慣になっている。
今日も今日とて、2人はチェスで遊んでいた。
「あ、イザーク、ちょっと待って!」
「だめだ」
「何でだめなんだよ。さっきは待ってくれたじゃないか」
次の手を慎重に考えるタイプのキラは、もう少し考えたいと『待った』をイザークに申し立てたのだが、あっさりと却下されててしまう。
それが不満なのか、少しふくれた顔をイザークに向けるが、そんなキラをイザークは冷たく見つめる。
「これで何度目だと思っているんだ」
「いいじゃないか、それぐらい」
「だめだ」
「イザーク!」
「遊びだって言うのに、お前はどれだけ時間をかければ済むんだ」
もともとイザークは短気な方である。
しかし、キラと遊んでいる時は、キラに合わせてゆっくり時間をかける様にしているが、しかし、ああでもない、こうでもないと考えて、時間ばっかりかかるのだ。
たかがチェス1ゲームで、こう、『待った』ばかり言われ、時間ばかりかかるのは、イザークとしても遊びの気分がそがれがちになってしまう。
それに勝敗的に言えば、キラの方が断然強い。
プライドの高いイザークだが、キラにだけは負けても悔しがる事はないが、それでも、負けることの多いチェスにこうまで時間がかかれば、さすがのイザークも嫌になってしまうのは仕方ない事だった。
「イザーク、あきちゃった?」
「ああ」
「ごめん、お茶でも入れようか?」
「そうしてくれ」
「うん」
イザークが自分に合わせている事を知っているキラは、飽きてしまったイザークに怒る事もなく、ゲームを止めてお茶にすることにした。
掃除や洗濯はイザークの担当だが、料理などはキラの担当だ。
よってお茶を入れるのもキラの担当である。
チェスをしていたテーブルから離れてお茶を入れにいく。
その間、イザークはチェスを片付ける。
いつもの激しい気性も、キラといる時は影を潜め、ゆったりとしている感じが漂っているイザークに、以前のイザークを知っている人間は驚いていた。
それほど、イザークはキラと出会い変わった。
ジュール家に生まれ、何でも召使たちが身の回りの世話をしてくれていたイザークは、軍に在籍してからは、必要に駆られ、自分の事は自分でするようになったが、キラと一緒に住むようになってから、家事は分担したものの、完璧に自分の担当をこなしている。
「イザーク、お茶が入ったよ。どこに持っていく?」
「今日は天気もいいし、風も気持ちがいい。外の木陰でいいんじゃないか?」
「うん、そうだね。じゃ、行こうか?」
窓からすがすがしい風が入り、キラはふんわりと微笑む。
変わったのはイザークだけではない。
キラもまた、イザークに出会って変わった。
けしてわがままを言わず、真面目で、自分に対し厳しく律してきたキラだったが、イザークにだけは言いたい事を言い。
わがままも言う。
意外な組み合わせだったが、2人が一緒にいることがとても自然に見えるほど、2人はお互いの存在が特別だったのだ。
紅茶の乗ったトレイを持って、バルコニーの方に歩き出したキラの元へイザークがやって来る。
「キラ、俺が持ってやる」
「これぐらい大丈夫だよ。ありがとうイザーク」
少し心配性なイザークに、ついキラは微笑んでしまう。
それに気づいたイザークは少し眉を寄せる。
「笑うな」
銀の輝く髪を風に揺らし、イザークはキラの頭をこずく。
その態度が照れ隠しだと知っているキラは、またくすくすと笑うのだった。
庭の木陰で、2人ゆっくりとお茶を飲みながら、いろんな話をする。
仕事のことから、共通の友人のことまで。
いつの間にか、横になっていたイザークが寝てしまっていることに気づいたキラは、そっと静かに部屋に戻り、タオルケットを持ってきてイザークの上にかけた。
そしてその横に滑り込むと、キラも目を閉じ、零れ日をまぶたの裏で受けているうちに眠りにつくのだった。
遊んで、お茶して、おしゃべりして、昼寝して、キラとイザークはそんな休日を過ごす事が、とても幸せに感じるのだった・・・・・・。
END