ホワイトバレンタイン






 2人が一緒に住むようになったのは、2月14日のバレンタインの日。

 バレンタインは、日本特有の風習が入り込み、義理はチョコ。
 本命には何か物を贈るというイベントごとになっていた。





 キラもイザークも男性だし、もちろんお互いとも、チョコレートを貰う側だ。

 でも、恋人同士の2人がお互い相手に贈ったのはプレゼント。

 キラはイザークがずっと欲しがっていた本を探し出しプレゼントし、イザークはキラと自分が住む為の家を買ってプレゼントした。

 そんな経路もあって、現在2人は一緒に住んでいる。










 そして今日は3月14日のホワイトダレンタイン。

 バレンタインで貰ったもののお返しの日でもある。





「イザーク、終わった?」
「ああ、キラも終わったのか?」
「帰る準備も終わってるよ」
「そうか」

 今日はチョコをもらった人に、お返しを渡し、夜はレストランを予約してあったので、キラはイザークを迎えに来たのだ。

 イザークの職場に現れたキラは、少し灰色みかかった紫水晶の瞳をいつもより明るい色に変化させ、嬉しそうにイザークの元へとやってきた。
 リュックも背負って、すぐにでも帰れる姿をしている。

 それを確認したイザークは、自分のポーチを掴む。

「じゃ、お先に失礼します」
「お疲れ〜。キラもお疲れ」
「お疲れ様です」

 2人は挨拶を済ませて、職場を出る。

 イザークはシルクで作られたような美しい銀糸の髪をなびかせ、隣を嬉しそうに歩くキラに優しく微笑む。

「疲れてないか?」
「ん? 全然。今日は比較的楽な作業が多かったからね」
「それは良かったな」
「本当にね」

 自分を気遣ってくれるイザークにキラも自然と幸せそうな微笑みが零れる。

 感情の起伏が激しかったイザークも、キラと出会って一緒にいるうち、今ではすっかり落ち着き、いつも穏やかな表情を浮かべるようになっていた。

 キラの方も、昔の頼りなさげで、哀しそうな雰囲気も消えて、今ではいつも幸せそうに微笑んでいる事が多い。

「帰りはケーキでも買って帰るか?」
「いいの? あ、じゃ、ホールでもいい?」
「ちゃんと1人で食べるならな」

 いくら甘いものが人並みのには食べられるからと言っても、ホールの半分を食べきる事はイザークにも不可能だ。
 しかし、きっとキラなら全部食べてしまうだろう。

 キラは本当に甘いものが大好きなのだから・・・・・・。

「そういうこと言うと、イザークにはちょっとしかあげないよ」
「俺はちょっとでいい」
「なんだよ〜。面白くないなぁ」
「別に面白くなくてかまわないんだが?」

 イザークの切り返しに、キラは少し考えるようなそぶりを見せた後、ふんわりと優しく微笑む。

「・・・ま、いいか。面白いイザークっていうのは、イザークらしくないもんね」
「まあな」

 そんな会話をして、2人ともクスクスと笑いあう。















 予約していたレストランで、たっぷりと舌鼓を打ちながら楽しく食事を摂った後、2人は話していた通り、途中でケーキをホールで買って2人で住むのにはちょっと広めの家に帰る。

 2人とも、バレンタインのお返しは家に置いてあるのだ。





「イザーク! 僕からのお返し」

 帰宅し、ソファーでゆったりとした気分になった頃、キラがイザークにプレゼントの包みを差し出した。

 キラがくれたのは、銀の懐中時計。
 デザインがすっきりとしたもので、少しレトロな感じを漂わせているアンティークものだ。

「へぇ・・・、よくこんなの見つけたな」
「うん、結構いいでしょう?」
「ああ、気に入った。ありがとう。キラ」

 イザークのお礼にキラも幸せそうに微笑む。

 そんなキラの表情に満足したようなイザークは、ソファーから立ち上がり、キラの肩に手を置くと、リビングから連れ出し、一番奥の部屋の扉の前へと連れてきた。

「俺のお返しはこの中にある。開けてみろ」
「う、うん」

 イザークの言葉にキラが頷いて扉を開けたとたん、中から足元に何かが崩れ落ちてくる。

 キラが驚いて見てみれば、それは部屋を埋め尽くしている色とりどりのお菓子の包みだった。

 チョコ、キャンディー、クッキー、マシュマロ・・・・・・・。

 ありとあらゆるお菓子が、カラフルな紙に包まれて部屋中に絨毯のように敷き詰められている。

「・・・すごい」
「食べごたえがあるだろう?」

 確かに食べごたえはあるだろうが、さすがにこれを全部キラ1人で食べるのは無理だろう。

「さすがにこんなにたくさんは無理だよ」
「ああ、そうだろうな」
「イザーク?」
「だから、近所のチビどもをこの部屋に呼んでやったらどうだ? これだけお菓子があるなら喜ぶだろう」

 にやりと笑うイザークをあっけにとられた顔をしていたキラは、その言葉を理解したとたん、イザークに抱きつく。

「イザーク、ありがとう! さっそく明日呼んでみるよ!」

 イザークの言う、近所のガキどもとは、戦争の時に両親をなくしてしまった孤児の子達のことである。
 丁度、家の近くに施設があり、キラは時たまその子たちを家に呼んで一緒に遊んでいた。

 それを知っていたからこそ、イザークがこれだけのお菓子をそろえたのだ。

 これだけたくさんあれば、絶対に子供たちは喜ぶだろう。
 子供たちが喜ぶのが嬉しいキラにとって、これほど嬉しいお返しはない。

 そんな気遣いまでしてくれるイザークに、キラは顔を上げ、背伸びをすると、精一杯の感謝の気持ちを込めて、イザークに優しいキスを贈るのだった・・・・・・。















END

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 これを書いた時、バレンタインの話も書けば良かったって思っちゃいました。
 コレだけじゃ、わかりにくいですもんね。
 ただ、いつもの2人のちょっとしたイベント事を書いてみたかったのです。