アルタイルにベガの輝きを・・・・。 |
7月7日七夕の夜は、天の川を隔てて、彦星と織姫が、一年に1度だけ逢うことを許された日。 将来有望な若手として注目のヒカルとアキラは、今回、珍しく参加するイベントが重なり、2人は京都へと来ていた。 イベントは7月7日の2時には終わり、2人はこのまま京都でプチ観光なるものをすることに決めたのだ。 2人は仏像が千体あるという三十三堂から清水寺を回り、地主(じしゅ)神社の前に来ていた。 「うわ〜なんかここ、女ばっかじゃん!」 ヒカルの言葉通り、神社の入り口にある階段にいるのは殆ど女性ばかりだ。 「ここは有名な縁結びで有名な神社だからね。・・・・それにしても本当に多いね。修学旅行の時に来た時でも人は多かったけど、前に来たときよりも人が多いい感じがするよ」 「あ、TV局の車とかあるぜ。今日何かあんのかな?」 縁結びの神様、良縁祈願などと書かれた看板が目立つ地主神社は、『恋占いの石』でも有名だ。 石はご本殿前にあって、片方の石から反対側の石に目を閉じて歩き、無事たどりつくことができると恋の願いがかなうと言われている。 平日もその占いをしている女性で賑わっているが、あと30分ほどで参拝時間が終わる5時だというのに、神社はたくさんの人で賑わっていた。 「ああ、そうか・・・・」 「何?」 理由を知っているらしいアキラの言葉に、ヒカルが振り向く。 「今日は七夕だろう? 恋愛成就の七夕祭があるんだよ」 「七夕祭?」 「七夕の説話にちなんで、七夕の日に恋愛成就のお祭りをしているんだ。七夕の笹に織姫・彦星にみたてた一組の紙で出来たこけしに互いの名前を書いて笹に吊るして奉納すると思いがかなうとかって話だ」 「へー」 意外な知識を持つアキラに、ヒカルが関心する。 きっと修学旅行で行き先を調べたりして、その時に知った話なのだろう。 そんな前のことでもないが、きちんと覚えているアキラに、ヒカルは真面目なアキラらしいとこっそりと笑った。 「進藤もしてみる?」 「は?」 いきなりそう言われ、言われた言葉の意味がわからなかったヒカルは、ぽかんとした表情でアキラを見上げた。 「紙こけしに名前を書いて吊るすかって聞いたんだよ」 「はぁ〜? いいよ別に、そんな相手いねぇし」 「じゃあ、僕がするから付き合ってくれないか?」 「・・・・・・」 あの碁以外興味ないんじゃないかと思っていたアキラが、恋愛成就の祈願をしたいと言い出したことに、ヒカルは頭の中が一瞬真っ白になった。 「ちょ、ちょっと待て! お前好きな子がいるのか!?」 「何を言っているんだ。いないのにこんなことして何の意味がある?」 「だ、だって・・・・」 「もう時間がない。急ごう!」 アキラに引っ張られてヒカルも一緒に神社に入る。 迷うことなく本殿の方へ進み、大きな笹のある近くにある備え付けの机からアキラはこけしとペンを手にとった。 その間もヒカルの頭の中では、先ほどのアキラの言葉がリフレインしている。 なぜ自分がアキラの言葉に対しこんなにショックを受けているのか、ヒカルは随分と前から理由を自覚していた。 だからこそ、ヒカルは胸の締め付けられるような気分で、アキラが織姫に見立てた紙こけしに好きな相手の名前を書くのを見守るしかない。 「あれ?」 アキラがこけしに名前を書くのを見守っていたヒカルは、アキラの書き込んだ名前に、つい声を漏らしてしまう。 見間違えでもなく、紙こけしには『進藤ヒカル』と書かれているのだ。 「塔矢?」 一瞬ヒカルの為にアキラが恋の成就祈願をしてくれようとして、誤った方の紙こけしにヒカルの名前を書いてしまったのかと思った。 しかし、アキラがヒカルの好きな人を知っているはずがない。 そこまで考えて、これは間違えではなく、アキラが好きな相手はヒカルなのだとすんなりと理解した。 「彦星の方のお前の名前、俺に書かせて」 「・・・・・・うん、お願いするよ」 ヒカルの言葉に安堵したような様子をみせるアキラに、ヒカルも自然と笑みが零れる。 アキラからペンと紙こけしを受け取り、ヒカルは気持ちを込めて丁寧にアキラの名前を書いて、アキラに渡した。 「ありがとう」 そうお礼を言って受け取ったアキラは、ヒカルが今まで見た表情の中で一番嬉しそうな笑顔だった。 「ここってご利益が早ぇーのな?」 「僕は前に『恋占いの石』もしたからね。そんなに早くはないと思うよ?」 「へ? お前、まさか・・・・修学旅行で来た時にしたのかよ?」 「うん」 「・・・・・・」 きっと女性しか占いをしていなかったはずだ。 その中でアキラは石から石へ歩いたのだろう。 しかも、今の言葉からするに無事に辿りついたに違いない。 「お前の面の皮の厚さには恐れいるよ」 「君もずいぶんと失礼だな」 「へいへい」 欲しいものを手に入れる為の努力は惜しまないアキラが、占いなどという不確かなものに頼ることもあると知ってヒカルは、そんなアキラがほんの少し可愛いく思えた。 「あっ! そう言えば、なんで俺が織姫なんだよっ!」 「当然だろう?」 「はぁ〜? 何いってんだよ。お前が織姫だろ?」 「ふざけるな! 君に決まっているだろう!」 お決まりのセリフを返してくるアキラに、ヒカルも負けじと口を開く。 そんな2人が甘い逢瀬の時間を作るには、まだまだ修行が必要なようである・・・・・・。
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