夢を見た





 うっつら、うっつらとした眠りと現実の狭間にいた。
 体は眠っているのに、神経は目覚めているような妙な感覚。

 自分のすぐ側で誰かが身じろぎした。

 ここは自分の部屋で、誰も側にいないことは俺が一番知っている。

 誰だ?

 そう考えた時、一番大切な顔が浮かんだ。

 佐為?

 そう聞きたくて、何とか口を動かそうとして良く知った雰囲気に気付いた。

 これは佐為じゃない。
 佐為のように優しい雰囲気ではなく、誰にも侵されない領域があり、竹のような清涼感の香りを感じる雰囲気。

 塔矢?

 そう、口だけ動かすと、側にいる人間はふわりと俺の頭に触れる。
 実際触れられてはいないのに、そう感じたのだ。

 慈しまれて、自分が大切に見守られているような視線。

 友達になるには、お互いが余りにも正反対すぎていまいち距離間が掴めない。
 そんな塔矢と俺の間柄は、「ライバル」だ。
 お互い切磋琢磨し、棋力を磨きあう存在。

 だから塔矢がこんなふうに俺の側にいるはずはない・・・・・・・・・。

 クスッと笑う雰囲気がして、近づいてくる気配。
 頬に暖かい感じがした。

 頬にキスされたんだ・・・・・・。

 今まで塔矢が俺にそんなことをしたこともないし、今後する事もないだろう。
 なのに、俺はそれを当たり前のように感じている。

 まるで、何度もキスされ慣れているように・・・・・・。

「・・・・・塔矢?」

 そっと目を開けて、塔矢の名前を呼ぶ。

「どうしたの? 進藤」

 優しく名前が呼ばれ、塔矢が微笑んでいる。
 しかし、それは瞬き1つした次の瞬間、消えていた。

 まるで淡い幻。

「塔矢」

 もう一度名を呼んでみても、塔矢が現れることはない。

 俺はベッドから身を起し、脇に置いてあったリュックから携帯を取り出し、もうすっかり覚えてしまった番号を押した。

 呼び出しのコールが鳴り、4コール目で相手が出る。

「進藤?」
「塔矢・・・・・・・、今から打とうぜ!!」










END

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