黙らせる |
「そうじゃないだろう!」 塔矢の家で経営している碁会所の一番端のスペースで、塔矢アキラの怒鳴り声が響く。 毎度毎度いつものことなので、お客さんもさすがに慣れていて振り向きもしない。 「いいじゃんか、結果よければすべて良しだろ?」 こう答えれば、さらに塔矢がヒートアップするとわかっているのに、ぽろりと口から言葉が零れてしまう。 もちろん、零れた言葉を塔矢が聞き逃すはずはない。 案の定、塔矢の目がきゅっと釣りあがった。 ヤバイ。 そう思ったとたん、腰を少しうかして、激情して前かがみだった塔矢の唇に自分の唇を押し付けた。 「あれ?」 「・・・・・・」 とっさに起した自分の行動に自分でびっくりしてしまう。 塔矢といえば、それ以上はむりだろうっとツッコミしたくなるほど瞳が見開かれていた。 テレビでうるさい口を塞ぐにはキスが一番だと聞いていたけれど、確かに効果はあるようだ。 でも、固まったまま動かない塔矢に、気まずい気分になる。 改めて思うのもなんだけど、俺にとってこれはファーストキスにカウントされるのだろうか? そう思ってまだ固まっている塔矢に聞いてみると、次の瞬間、真っ赤になって顔をそむけられた。 「そんなこと、僕が知るものかっ!」 少し怒った表情だったけど、顔は赤いままだ。 そんな塔矢がほんの少し可愛いと思ってしまった俺も、ちょっとドキドキしている。 この次も、塔矢がヒートアップしてうるさくなったらまたキスしよう。 何度もそんなことをしていて、塔矢が慣れてしまったら、その時にはもっと別の関係になっているような予感がする。 俺と塔矢は、どんな関係になっても変わることはないんだから・・・・・・・・・。
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