コーヒー |
殆ど徹夜明けの朝。 検討に白熱していて、つい寝るのが朝方ってことは、最近珍しくない。 そして、いつものように僕が朝食を作る。 君は外見からは想像出来ないぐらい器用だから料理は僕より上手かったりするけど、ここは僕の家で彼は一応、お客さんだ。 だから僕が朝食をつくるのは当然で、当然のようにトーストと、目玉焼き、ミニサラダを作る。 今までこうして彼と朝食を摂るようになるまでは純和食の朝食だったけれど、彼の朝食は簡単に作れるし、消化も早い。 最初は手間でも別々に作っていたのに、いつの間にか起きるのがギリギリになってしまったりしたことが重なっているうちに僕も同じものを食べていた。 食べなれてしまうと手間をかけるのが面倒になってしまい、今ではあたりまえのように同じ物を食べている。 違うとしたら飲み物ぐらいだろう。 彼は朝からコーラだ。 僕はトーストを食べるようになってコーヒー。 炭酸が苦手な僕には朝からコーラを美味しそうに飲む彼は、理解不能な不思議な生き物に見える瞬間の1つだ。 「塔矢、もう一枚焼いて」 「わかった」 今日はいつもよりお腹の減り具合が大きいらしい。 あの細身の体のどこに入るのかと思うほど食べる彼だから、もっとと要求してきたのにはもう驚かなくなっていた。 手際よくトーストを焼き、もう一枚目玉焼きを焼く。 この作業も慣れたせいで、手際よく出来るようになっていた。 「あー、目玉焼きの黄身は半生だからなっ!」 「いつものことだろう? わかっているよ」 「えへへ、そうだよな。サンキュ!」 彼は嬉しそうに笑うと、トーストに食らいつく。 ちょっと厚めにスライスされたトーストは、1斤以上が彼の胃の中へと消えていくのだ。 彼は育ち盛りなんだからこれぐらい普通だと言うけれど、燃費が悪すぎると思うのは僕だけじゃないはず・・・・・・。 僕は空になりかけている自分のコーヒーカップにコーヒーを入れ、彼のトーストと自分のコーヒーをテーブルに置いた。 僕が座ろうとした時に、いきなり彼が僕のコーヒーに手を伸ばす。 「進藤?」 砂糖もミルクも入っていないコーヒー。 甘党の彼には飲めないはずだし、自分の分のコーラはまだコップに入っている。 いったい何を?と、見ているそばでコーヒーをひとくち口に含んだとたん、彼は顔をしかめた。 「苦っ」 すぐに自分のコーラで口直しをしている。 「馬鹿だな。僕が朝はブラックなのを君は知っているだろう? それなのに何故飲んだりしたんだ」 「だって、すげぇ美味そうに飲むからさ。それに知ってたか? コーラの原料ってコーヒーなんだぜ」 「でもあれにはカラメルとか、甘い成分が入っているだろう?」 「そうだけど、同じ原料で出来ているなら俺にも飲めるかなって思ったんだよ」 「・・・・・・」 彼の短絡思考に僕があきれた気分でいると、彼はほんの少し気まずそうに僕を見る。 「何?」 そう聞いてやると、彼は少し顔を赤くした。 「同じもん食って、同じもん飲んだら、俺ら、胃の中も一緒じゃん」 「・・・・・・だから?」 「お前と1つになれた気がするだろっ!」 最初は小さな声で、最後は怒鳴るようにして話す彼の顔は、真っ赤になっている。 そんな彼を見ながら彼の言葉を飲み込む。 彼の思考回路は、彼の打ち方のように変なところを突き進んでくるから、僕はいつも理解が追いつかない。 でも、さすがにこう付き合いが長くなってくると、立ち直りは早くなった。 何事も慣れなのかもしれない。 「別に同じ物を食べなくても1つになれるよ。試してみる?」 「へ?」 僕の言葉が理解出来ないのか、彼はぽかんとした表情だった。 でも、すぐに僕の言葉の意味していることがわかったのか、一瞬にして真っ赤になる。 「ばっ、ばかやろう! 朝からくだらねぇ冗談を言ってんじゃねえよ!」 「冗談? 僕はいつでも真面目だけどね。しょうがない、君がその気になるまで待ってるよ」 「待たなくていいっ! 俺はそんな趣味はないし、一生その気にはならねぇからなっ!」 真っ赤になって嫌がる彼とはもうキスまでしている関係だし、彼も抵抗なくそれを受け入れているから、言葉にはしていないけれど、僕はそのつもりで彼と接している。 「コーヒー、もっと飲むかい? コーヒー1つで僕と1つになれた気持ちになれるなら、僕としてはもっと飲んで欲しいな」 「お、お前は変態だっ! そうだ、エロカッパだ!!」 真っ赤な顔をした彼は、僕にありったけの悪態をつく。 でも、僕はそんな彼に、ありったけの気持ちを込めて彼の唇にキスをおとした・・・・・・・・・・・・。
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