「ふざけるなっ!!」
プラントにあるジュール家内に、大きな怒鳴り声が響く。
「イ、イザーク、お前、俺の耳元でそう怒鳴るなよ〜」
耳の中に指をつっこみ、ディアッカは横に座っているイザークから少しでも離れようと体をずらす。
もちろん、そんなことは無意味なのだが・・・・。
今、イザークとディアッカの目の前には、ラクスと、ミリアリアが座っている。
怒鳴られても、にこやかな微笑みは崩す事のないラクスと、嫌そうなミリアリアは対照的な表情だ。
「あら、ふざけてなどいませんわ。いたって本気です」
「貴様・・・」
両手を合わせ、にっこりと笑みを崩すことなく答えるラクスに、イザークは怒りを募らせていく。
「ストライクのパイロットのヤツと俺が、本気で、一緒に仲良く仕事するとでも思っているんだとすれば、貴様の目は節穴だなっ」
「そんなことありませんわ。イザーク様なら、きっとキラと一番仲良しになれると信じられるからこそ、こうしてわざわざこちらにお伺いしているんですわ」
ああ言えば、こう言う。
イザークの態度も言葉も、まったく気にすることなく、マイペースで話を進めるラクスに、ディアッカは感心していた。
この様子なら、なんだかんだと揉めても、結局相手の言い分を飲むことになるだろうと予想したディアッカは、ラクスの横で、はらはらして見ているミリアリアを観察することに決めこむ。
キラも結構いいヤツだったし、想いを寄せているミリアリアと同じ職場というのは、かなり魅力的な条件だ。
イザークが一緒に行こうが、行くまいが、ディアッカはこの話を受け入れるつもりだった。
なんだかんだと言って、微妙な立場なのはキラだけでなく、自分たちも含まれる。
この際、全員一緒の場所に保護しようとしているオーブの好意をありがたく受け入れるという事は、自分の身の安全を確保できるという事だ。
その事は、イザークにだって判ってはいるだろう。
ただ、感情の整理がつかないだけなのだ。
それだって、結局、話しているうちに治まるだろうし、イザークの場合、一度受け入れた約束は必ず守る。
これから、色々と楽しくなりそうな生活に、ディアッカは心の中で微笑んでいた。
一流のホテルのスウィート並の豪華さを備えた部屋に通され、イザークもディアッカも目を丸くする。
「ヒュ〜♪ すげぇー・・・」
「・・・・・」
とても社の所有している寮とは思えないほど豪華だ。
イザークとディアッカはVIP扱いとなっていたし、もちろん、出資しているのはオーブだけではない。
よって特別に安全面も考慮され、わざわざこのメンバーの為に建てられたのだ。
2人で使うには広すぎる部屋に入り、それぞれの個室に荷物を放り込むと、用意されていた作業着に着替える。
今日はメンバー全員の顔合わせと、施設内の案内があるのだ。
2人はシンプルだが、機能的な作業着に着替え終わると、指定された場所へと向かう。
イザークはディアッカに気づかれない程度だがほんの少し緊張していた。
この度、初めてストライクのパイロットであったキラ=ヤマトと会うのだ。
顔に傷を負わせ、いまいましくも、自分の攻撃をするりとかわし、なおかつ自分を助けようとしたトライクのパイロット。
ディアッカから少し話を聞いていたが、どうしても想像がつかないのだ。
透き通る紫水晶の瞳が印象の、ごく普通の少年。
自分たちとそう年齢は変わらず、軍に所属していたわけでもなかったのに、ふとしたことから、ストライクに乗る事になり、戦場で自分らと戦い、いつもイザークに負けた気持ちにさせたパイロット。
訓練を受けたことのない少年がいきなりMSに乗り、自分たち相手に戦ってきた。
ナチュラルの中、たった1人、自分だけコーディネーターでいる孤独を背負いながら、かっての友人のアスランと戦い苦しんできたという・・・・・・。
そんな話をディアッカから聞いていたイザークは、憎んでいたのに、憎むことが出来なくなってしまったのだ。
それがイザークを一番深く捕らえていた。
戸惑いと、困惑。
憎む想いと、同情。
プライドと、尊敬の念。
さまざまな感情がイザークを混乱させていたところへ、モルゲンレーテ社のMS技術開発部の専用テストパイロットの話がラクスによって持ち込まれたのだ。
最初はキラがいると聞いて、キラがいれば自分など必要ないと思っていたのだが、キラがMSに乗る事を拒否しているし、開発の重要な要の仕事をすると聞いた。
だからこそ、キラに応えられるテストパイロットが必要であり、そのパイロットに相応しいのが自分とディアッカだと言うのだ。
最初は腹をたてたりもしたが、現在の自分の状況から判断すれば、またとない好都合な話である。
結局、イザークは引き受けた。
どんなにキラが気に食わない人間だったとしても、仕事は仕事だ。
一度引き受けたからには、最後まで仕事をきちんとやり通す決心でここに来たのだ。
「イザーク、ディアッカ!」
「アスラン! まさか・・・貴様もテストパイロットなのか!?」
軍でも一緒だったアスランに急に声をかけられ、イザークは表面に出しはしないが、かなり慌てていた。
アスランもテストパイロットだとは聞いていなかったからだ。
別にアスランが嫌いな訳ではない。
ただ、なんとなくイザークの中に苦手意識があるのだ。
しかし、目の前にいるアスランは自分たちのように作業着ではなく、仕立ての良いスーツを着ている。
「もちろん違うさ。時々は手伝いには来るけどね」
「あれだろ、オーブのお姫様の補佐するのが、アスランの仕事なんだよな?」
「そうなんだ」
カガリと恋人同士だと知っているディアッカは、冷やかし半面で言ったのだが、アスランにさらりと流されてしまう。
「さ、こんな所で立ち止まって話していると遅刻する。急ごう」
「あ、ああ」
3人とも、話は後にし、顔合わせに指定された部屋へと急ぐことにした。
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