Destiny 〜04〜

Destiny

 イザークとキラは一緒に仕事をするようになって、結構衝突する事が多い。

 別に仲が悪い訳ではないのだが、キラの要求は厳しく、さらりと冗談の1つでも言ってその場をやり過ごす事の出来ないイザークは、すぐに切れてキラと揉めるのだ。

 確かにキラの仕事は目を見張るほど素晴らしいものがあるが、とにかく細かく、微妙なデーターを取りたがるところがあり、その要求通りの動きをするのが大変なのである。
 言っている事が理解出来ても、体をその通り動かすことが難しい。

 だが、キラにはそれすらもどかしいのか、何度も丁寧に説明して、判っていることをくどくどと言われることにイラつくイザークが、キラに文句を言って、キラがそれに反応するという状態だった。

 温厚で優しく控えめなキラだが、イザークには特に厳しい。

 それはイザークを嫌っているとかの個人的な感情からではなく、逆に、イザークの腕を信頼しているからこそ、高度で微妙なテクニックを要求する。

 その事はイザーク自身もわかってはいるのだが、キラに対し、言いたい事は言いたいだけ言っているようなのだ。

 だからこそ言い合いが絶えない。

 それでいて、別に険悪な雰囲気になるようなことにはならず、お互いすぐに気持ちを切り替えて仕事に戻っていく。

 だから2人が言い争って揉めても、最初は誰かが止めに入っていたが、いつの間にか誰も止める事はなく、お互いの気が済むまで、放っておかれるようになっていた。










「うるさい! わかってると言ってるだろう!」
「そう言ってさっきから全然出来てないじゃないですか!」
「こっちは、言われて、はい出来ましたってわけには行かないんだよ。タイミングが掴めるまで少しは待ってろ!」
「いつまで待てばいいんです? さっきから何度もやっているじゃないですか」

 険悪そのもの・・・・・・と、いう感じだが、すぐにどちらかが妥協案を出して話は終わる。

 今日は、イザークの方が妥協案を出してきた。

「少し疲れた。ちょうどメシの時間だし、休ませろ」
「・・・確かに、仕方ないですね。じゃあ、この続きは午後からにしましょう」
「キラ。お前ももうここで終わらせて、一緒に食事に行くぞ」
「わかりました。じゃあ、これだけ入力して終わらせます」
「ああ、早くしろよ」

 イザークが計測用スーツを脱いでいる間、キラはさっさと入力を済ませ、コンピューターを終了させる。

 自分の作業ディスクの上を簡単に片付け、データー解析をしているミリアリアに声をかける。

「ミリィ、僕、イザークと食事に出るから、あとよろしく」
「はーい、行ってらっしゃ〜い」

 ミリアリアがキラに向かって了承の合図を送ってくるのを確認し、キラはイザークのところへと向う。

 2人は昼食もそうだが、夕食も一緒にとる事が多い。

 そんなふうに、2人は仲が良いようだった。









 イザークは目の前で昼食を摂っているキラ見て、イザークはかって、傷跡のあった場所にそっと手をやり、初めてキラに会った時の事を思い出す。





 ディアッカの言った通り、キラは透き通る紫水晶の瞳が印象的だが、どこにでもいる、ごく平凡な少年だった。
 ふと、キラを見て、イザークは優しすぎる繊細な心が透けて見えるような気もした。

 それから一緒に仕事をして、キラの性格を知れば知るほど、イザークはキラに対し、好感を持つようになり、自分を傷つけた相手を忘れない為に残しておいた傷跡は、相手を知った事で不要なものとなってしまった。

 だからイザークは傷跡をアッサリと消してしまったのだ。
 
 それについてはアスランもディアッカも何も言わなかったし、イザークもあえてキラに傷の事を教えるつもりもなかった。

 キラが悪いのではない。
 あれは戦争だったのだ・・・・・・。

 そして、今はその戦争も終わった。





 いま、キラは自分の大切な仕事仲間だ。
 だから傷跡を消してしまった事を後悔した事はない。

 ラクスが言った通り、キラは信頼できる人物で、イザークのことを一番理解してくれる相手でもある。

 キラの前では自分は取り繕うこともなく、自然にいられる。
 お互い言いたい事を言い合って、笑って怒って、一緒に喜ぶ仲間と言ってもいいだろう。
 ディアッカの事とは別に、キラには何か深い絆が出来たようにイザークには思えた。






 イザークには特別な何かがどんなものか、まだわからなかったけれど、キラの存在は、イザークにとって特別であるという確信はあった。

 いつか、それもわかる時がくるだろうと、イザークは確信めいたものを感じていた・・・・・・。


















back
2004/01/23 作成