イザークとキラは一緒に仕事をするようになって、結構衝突する事が多い。
別に仲が悪い訳ではないのだが、キラの要求は厳しく、さらりと冗談の1つでも言ってその場をやり過ごす事の出来ないイザークは、すぐに切れてキラと揉めるのだ。
確かにキラの仕事は目を見張るほど素晴らしいものがあるが、とにかく細かく、微妙なデーターを取りたがるところがあり、その要求通りの動きをするのが大変なのである。
言っている事が理解出来ても、体をその通り動かすことが難しい。
だが、キラにはそれすらもどかしいのか、何度も丁寧に説明して、判っていることをくどくどと言われることにイラつくイザークが、キラに文句を言って、キラがそれに反応するという状態だった。
温厚で優しく控えめなキラだが、イザークには特に厳しい。
それはイザークを嫌っているとかの個人的な感情からではなく、逆に、イザークの腕を信頼しているからこそ、高度で微妙なテクニックを要求する。
その事はイザーク自身もわかってはいるのだが、キラに対し、言いたい事は言いたいだけ言っているようなのだ。
だからこそ言い合いが絶えない。
それでいて、別に険悪な雰囲気になるようなことにはならず、お互いすぐに気持ちを切り替えて仕事に戻っていく。
だから2人が言い争って揉めても、最初は誰かが止めに入っていたが、いつの間にか誰も止める事はなく、お互いの気が済むまで、放っておかれるようになっていた。
「うるさい! わかってると言ってるだろう!」
「そう言ってさっきから全然出来てないじゃないですか!」
「こっちは、言われて、はい出来ましたってわけには行かないんだよ。タイミングが掴めるまで少しは待ってろ!」
「いつまで待てばいいんです? さっきから何度もやっているじゃないですか」
険悪そのもの・・・・・・と、いう感じだが、すぐにどちらかが妥協案を出して話は終わる。
今日は、イザークの方が妥協案を出してきた。
「少し疲れた。ちょうどメシの時間だし、休ませろ」
「・・・確かに、仕方ないですね。じゃあ、この続きは午後からにしましょう」
「キラ。お前ももうここで終わらせて、一緒に食事に行くぞ」
「わかりました。じゃあ、これだけ入力して終わらせます」
「ああ、早くしろよ」
イザークが計測用スーツを脱いでいる間、キラはさっさと入力を済ませ、コンピューターを終了させる。
自分の作業ディスクの上を簡単に片付け、データー解析をしているミリアリアに声をかける。
「ミリィ、僕、イザークと食事に出るから、あとよろしく」
「はーい、行ってらっしゃ〜い」
ミリアリアがキラに向かって了承の合図を送ってくるのを確認し、キラはイザークのところへと向う。
2人は昼食もそうだが、夕食も一緒にとる事が多い。
そんなふうに、2人は仲が良いようだった。
イザークは目の前で昼食を摂っているキラ見て、イザークはかって、傷跡のあった場所にそっと手をやり、初めてキラに会った時の事を思い出す。
ディアッカの言った通り、キラは透き通る紫水晶の瞳が印象的だが、どこにでもいる、ごく平凡な少年だった。
ふと、キラを見て、イザークは優しすぎる繊細な心が透けて見えるような気もした。
それから一緒に仕事をして、キラの性格を知れば知るほど、イザークはキラに対し、好感を持つようになり、自分を傷つけた相手を忘れない為に残しておいた傷跡は、相手を知った事で不要なものとなってしまった。
だからイザークは傷跡をアッサリと消してしまったのだ。
それについてはアスランもディアッカも何も言わなかったし、イザークもあえてキラに傷の事を教えるつもりもなかった。
キラが悪いのではない。
あれは戦争だったのだ・・・・・・。
そして、今はその戦争も終わった。
いま、キラは自分の大切な仕事仲間だ。
だから傷跡を消してしまった事を後悔した事はない。
ラクスが言った通り、キラは信頼できる人物で、イザークのことを一番理解してくれる相手でもある。
キラの前では自分は取り繕うこともなく、自然にいられる。
お互い言いたい事を言い合って、笑って怒って、一緒に喜ぶ仲間と言ってもいいだろう。
ディアッカの事とは別に、キラには何か深い絆が出来たようにイザークには思えた。
イザークには特別な何かがどんなものか、まだわからなかったけれど、キラの存在は、イザークにとって特別であるという確信はあった。
いつか、それもわかる時がくるだろうと、イザークは確信めいたものを感じていた・・・・・・。
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