Destiny 〜05〜

Destiny

 眠れない深夜。

 キラはMSの格納庫に来て、デュエル、バスターと並ぶもう1つのMSを見上げていた。

 かって自分の機体だったストライクとフリーダム、そしてさらにジャスティスの機体を統合して新たに開発された機体、GOT OF THUNDER(神の雷)と呼ばれるMS。





 キラが自分のすべてをかけて戦った戦争は終わったが、だからと言って全てが終わったわけではない。
 後にはさまざまな問題が残っている。

 ナチュラルとコーディネーターとの間にある問題もそうだが、一番は戦争が残した心の傷だろう。

 それはキラの心にも大きく傷跡を残していた。










 ただの学生だった自分が、戦争に参加し、人を殺す。

 それは戦争だと言う理由があったとしても、失った命は、もう2度とかえることはない。
 自分が殺した相手には家族も、もしかして恋人だっていたかもしれないし、また、結婚して子供もいたかもしれないのだ。
 そういった人に、失う悲しみを残す。

 戦争であっても、じかに手を下したのは自分だ。

 血に濡れた手が辛くて、もう2度とMSには乗りたくはなかった。

 なのに、それを忘れないようにするかのように、キラはこうして自分専用のMSをつくり、眠れない夜にはここにやってくるのだ。

「・・・僕は悪夢を見ているのかな?」
「どう思おうとかまわんが、現実は何も変わらんぞ」
「!」

 こんな深夜の格納庫で、まさか誰かがいるとは思っていなかったキラは、飛び上がるように声の方を振り向く。

「戦争が早く終われば、被害もそれだけ少なくて済む。・・・俺はそう思って軍に志願した。下のヤツを殺さなければ、戦争を起こした上のヤツは出てこないしな。だから相手を殺す事に躊躇った事はない」
「イザーク・・・」
「戦争は戦争だ。人殺しではない。それを人殺しだと言うのなら、それこそ綺麗事だ。違うか?」

 イザークの鋭いアイスブルーの瞳が、キラを射抜く。

 パジャマにジャケットを羽織っているキラとは違い、ラフな格好ではあるが、きちんとした格好をしている。
 そのことから、ずっと起きていたことが伺えた。

「・・・こんな遅くまで起きてたんですか?」
「ああ、そうだ。明日は休みだからな、読みたかった本を読んでいたらこんな時間になっていたんだ。それでもう寝ようかと思って、ちょっと外を見れば、ふらふらと歩いているヤツがいるし、それで気になって様子を見にきたというわけだ」

 『ふらふらしたヤツ』というのがキラだということは、すぐにキラにもわかった。

「ちょっと眠れなかっただけです」
「お前はちょっと眠れないと、こんな所へ来るのか?」

 キツイ当てこすりを言われ、何も言えないキラは少し俯いてしまう。

「どうせお前のことだ。うだうだと下らん事を考えて眠れなくなったのだろう?」
「僕は・・・・」
「俺は忘れろとも、気にするなとも言わん。ただ・・・、俺とお前が敵同士だった時、大切なもののために戦い、相手を倒す事だけを考えていたはずだ。もし誰かに撃たれて死んだとしても、お前はソイツを恨んだりはしなかっただろう? そんなふうにお互いが同じ気持ちで戦っていた。・・・ただ、それだけだ」





 誰もが何かの為に戦った。





 それが愛する人だったり、住んでいる場所だったり・・・・・・。

 何かの為に戦争をするからには、もちろん自分の死を覚悟してのことだ。  それをイザークは言っているのだ。

「それが悲しく辛いなら、その分、生きている間に償え。悲しんでいて何が変わる? そんなことは誰にでも出来ることだ。そんな下らん事をする時間があるなら、誰かのために何かしてろ。それが生きている者の苦しさだ」
「イザーク・・・」

 そう言うイザークの横顔からは、何の表情も伺えない。

 自分より、たった1つしか違わないイザーク。
 いくら戦争だからと、人を殺して何も思わないわけなどないのだ。

 イザークは自分のした事に責任をとり続けているのだ。
 生きて、自分の出来ることをしながら・・・・・・。

 それがキラにも判って、締付けるような切なさがキラの心をふるわせる。

 その時キラは、イザークを綺麗なだけではなく、強く、潔い人間として、強く惹かれていく自分を感じるのだった・・・・・・。















 キラがモルゲンレーテ社のMS技術開発部の主任という肩書きを立派に勤めて始めた頃、忙しくてなかなか会えない恋人、ラクスがキラの部屋へと遊びにきていた。

 恋人同士と言っても本当は名ばかりだったりする。
 ただ、2人の間には、肉親の愛情と同じようなものがあり、色々と話し合った結果、2人は恋人同士という事にしようと決めたのだ。

 実は、本当の姉弟のカガリより、ラクスの方が姉弟という感覚が強かったりするので、キラもラクスと一緒にいると安心するのだ。

 ラスクもキラには何でも話すし、わがままも言う。

 お互いが、支えあっているような関係だった。





「それでね、イザークってば・・・」

 テーブルをはさんで向き合った目の前で、ラスクが嬉しそうに自分の話を聞いていることに気づいたキラは、途中で話を止めて首をかしげる。

「何?」
「キラは、イザーク様の話になると、本当に幸せそうに話しますのね」
「え、そう? 普通だと思うけど?」
「いいえ、本当に幸せそうですわ」

 ラクスに確信があるように言われてしまうと、キラも困ってしまう。
 結構、ラクスの方が色々と鋭かったりして、キラ自身にも気付かなかった事にも気付いていたりするのだ。

「イザークは隠し事や、遠まわしな表現とかしないから、安心して話せるんだ。結構言い方がキツかったりするけど、すごく優しいしね」
「キラはイザーク様がとても大好きなのですね」
「えっ!? だ、大好き?」
「はい♪」

 にっこりとラクスに微笑まれ、キラの体温が上昇して顔が赤くなるのが自分でもわかる。
 動揺がキラを焦らせた。

「好きか嫌いかって言うなら、そ、そりゃ好きだよ」
「ええ、でも、キラにとってイザーク様は特別でしょう?」
「特別って・・・」
「そうですわね、一般的な表現で、肉親愛ではない気持ちで、愛していると申した方がいいのでしょうか?」
「え、ええっ〜!!」

 ラクスのとんでもない言葉に、キラの頭の中が一瞬真っ白になる。

 確かにイザークの事は好きだ。
 でも、ラクスだって、アスランだって、カガリだって好きだ。

 そう考えた次の瞬間、イザークと、ラクス達の好きの種類が違う事に気付く。
 
「で、でも、イザークも僕も男だし・・・」
「あら、性別という垣根を持たず、1人の人間として見ると言うのは素晴らしいことですわ」
「そ、そりゃそうだけど・・・」
「頑張ってくださいね、キラ」

 何もかも知っているような微笑に、キラもこれ以上は何も言えない。

 時々キラは、ラクスには本当に何もかも見えているのではないかと思う時があるのだ。

 ドキドキと高鳴る気持ちに、キラはただひたすら戸惑うばかりである・・・。

















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2004/02/12 作成