ラクスに指摘されてから、キラは特にイザークを意識てしまうようになり、仕事以外のことで一緒にいると、なんとなく居心地が悪いような感じがし、キラはどうすればいいのかわからずに困惑していた。
それをイザークに気づかれたくなくて、キラはイザークを避ける為に、さらに仕事へとのめり込んでいく。
もともと、仕事量も半端ではない量をこなしていたのに、さらに根を詰めていたキラをイザークが心配そうに見ているのにも気付かず、キラは仕事の忙しさを利用し、自分の気持ちを忘れる為に、不必要に仕事を増やしていった。
そんなある日、久しぶりにアスランがモルゲンレーテ社にやってきた。
同じオーブの地であったとしても、アスランやカガリはオーブ国復興に忙しい。
そのため、キラがアスランに会うのは数ヶ月ぶりだった。
「あっちは忙しい?」
「だいぶ落ち着いてきてはいるけどね」
「おっ、アスランじゃねーの」
ドアが開く音とともに、イザークとディアッカが部屋に入ってきたのだ。
「ディアッカ、それにイザークも来たのか?」
「お疲れ様、ディアッカ、イザーク」
こうしてイザークと会うのは久しぶりだが、みんながいるので、キラも安心して話すことが出来る。
「午前の予定はこれで終わりだろ? 久しぶりに揃ったところで、食堂にメシでも食べに行こうぜ」
「ディアッカ、いつも一緒に食べているミリアリアは?」
いつもミリアリアと一緒に昼食を摂っていることを知っているアスランが、みんなで食べようと言い出したディアッカにおどろく。
「ミリィは学校だよ」
「そ、つまんねぇけどな」
「おい、時間の無駄だ。行くなら行くで、さっさと行くぞ」
「はいはい」
まったくもって、イザークらしい催促に、キラとアスラン、それとディアッカが顔をあわせて笑うと、食堂へと歩き出した。
キラ、アスラン、イザーク、ディアッカのメンバーで昼食を摂るのは初めてだ。
キラはアスランがいる時はアスランと、普段はマードックらやイザークと食べているからだ。
「このメンバーで食べるのって初めてだよね」
「そう言えばそうだなぁ〜。俺、たいていミリィと一緒に食べてるしな」
「そうだね」
ミリアリアに猛アタックしているディアッカらしい答えが返ってきて、キラはつい笑ってしまう。
みんなそれぞれ、好きなランチをトレイに乗せて、キラの横を、当然アスランが、目の前はディアッカで、ディアッカの横、つまりキラの斜め前にイザークが座る。
食堂と言うわりに、結構いけるランチを食べながら話が進む。
最初はアスランとオーブの話だったのだが、さすがに3人とも、元ザフト軍にいただけに、話がだんだんザフトの時の話になっていった。
最初は話していたキラも、話がザフトのことになれば聞き役に廻るしかない。
楽しそうに話す3人の共通の話題に入っていけないキラは、だんだんと、会話から遠ざかっていった。
3人とは別に、1人でナチュラルの中にいて、戦っていたあの日がよみがえってくる・・・・・・。
それとは別に、2人と話しているイザークを見て、キラは胸のむかつきを感じていた。
3人にしか判らない会話。
3人にしかわからない思い出。
3人にしかない絆。
たった1人のキラにはないものだ。
すべてを理解しようとするのは無理だと、キラにもわかっていたが、自分だけがわからないということに、胸が締付けられるほど哀しいのだ。
そして、それを知っているアスランとディアッカが憎く思え、キラは俯き、瞳をきつく閉じる。
自分は守りたいもののために、あの道を選んだのだ。
そのことに後悔はないが、イザークを自分より知っている人間が2人もいることを見せ付けられ、キラは嫉妬の苦しみを知った。
そして・・・・・・。
どんなに誤魔化して諦めようとしても、自分はこんなにもイザークを好きなのだということがわかってしまった。
自分と同じ男性だと言うのに・・・。
報われない思いを抱いている自分に、キラはやりきれない気持ちをもてあましていた・・・・・・。
「キラ?」
心配げなアスランの声に、キラは意識を現実に戻し、アスランの方を見る。
「顔色が悪いね。具合でも悪いのか?」
そこには、声と同じ、心配げなアスランが、キラの顔を覗き込んでいる。
「アスラン・・・。うん、何か急に気分が悪くなって・・・」
「養護室に行くか?」
「うん、そうだね。薬でも貰ってくるよ」
アスランから顔をそむけると、その言葉に頷く。
今は、アスランの顔を見るのも嫌だったし、側にもいたくなかったのだ。
「一緒に行こうか?」
「1人で、大丈夫だよ」
トレイを持って立ち上がるキラに、アスランの心配げな視線が絡む。
今はそっとして欲しかった。
それなのに、その反面、イザークが一緒について来ると言ってくれないかと期待する自分がいる。
みんながいて、自分を選ぶはずなどないというのに・・・・・・。
トレイを棚に置いて、キラは食堂を出て行く。
イザークと一緒にいると、落ち着かないので側にいて欲しくないくせに、イザークが自分以外の誰かと一緒にいることを嫌だと思ってしまう。
そんな自分の身勝手さに、キラは胸のあたりの服を握り締め養護室に向かって通路を歩いた。
以前、フレイに抱いていたようなおままごとのような恋でもなければ、ラクスのように、肉親愛に近い気持ちでもない。
灼熱の感情がキラを蝕んでいく。
イザークは男で、自分も男だ。
薬を飲んで治るものなら、どんな薬でも飲むのに、この気持ちは薬では治らない。
叶うはずのない想いを抱いてしまったキラは、その苦しさに押しつぶされそうになり、その場にしゃがみこんでしまった。
「キラ、大丈夫か!?」
通路にしゃがみこんでしまったキラに、一番側にいて欲しい人の声が聞こえ、キラはすぐに声のした方に顔を上げた。
キラの視界に、すこし心配げなイザークがキラの方に歩いてくるのが目に入る。
「イザーク・・・」
キラの胸に、嬉しさと喜びが湧き上がる。
イザークが自分を心配してきてくれたのだということが、キラには何よりも嬉しい。
泣きたい気持ちで、イザークが自分のそばに来てくれるのを見つめる。
「まったく、そんなに気分が悪いなら、無理して1人で行こうとするなっ!」
「イザーク」
「ほら、立てるか?」
「うん・・・」
イザークがキラの腕を掴み、立ち上がらせ、気遣うようにキラを支え養護室へと歩き出した。
「最近、仕事のし過ぎだ」
「うん・・・」
「コーディネーターといえど、無理をすれば倒れることはおまえ自身、一番わかっているだろう!?」
「うん・・・」
「わかっているなら、こうなる前に考えろ」
「・・・うん」
お説教されていても、すぐそばにイザークがいてくれるのが嬉しくて、キラはイザークの言葉に、何度も頷く。
「・・・お前、さっきから、『うん』としか言わんぞ。まさか、俺の話を聞いてないのか!?」
「ごめん・・・聞いているよ」
「なら、自分の健康管理ぐらい、しっかりしろ」
「うん・・・」
「・・・・・・」
やっぱり『うん』と返事をするキラに、イザークはこれ以上言う事を諦める。
「あんまり、心配かけるな・・・」
小さくつぶやかれたイザークのつぶやきに、キラは泣きたいほど嬉しい気持ちになるのだった・・・。
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