認めてしまった恋ほど、扱いずらいものはないと、キラはイザークの乗るMSのデーターを見ながら思っていた。
認めてしまえば、認められなかった苦しさはなくなる。
しかし、恋の苦しさに変わりはなく。
嬉しさと哀しさ。
喜びと悲しみ。
幸せと苦しみ。
さまざまな感情を振り子の様にいったりきたりしている。
そんな自分の恋に、キラは戸惑うばかりだ。
イザークのどこに惹かれたのか・・・。
そう改めて考えてみると、瞳に宿る光の強さと同じ、真っ直ぐで眩しいばかりの感情の流れと強さに憧れ、不器用な優しさがキラの心を引くのだ。
相手が女の子なら、素直に言葉に出来たかもしれない。
しかし、相手が同性のイザークでは、言葉にすればかえってくるのは『貴様っ、ふざけているのかっ!!』の一言であろう。
容易にその言葉が想像できる自分に苦笑しつつ、もてあまし気味な自分の気持ちに悩みは尽きない。
そんな自分に困惑しつつも、キラの気持ちは、どんどんイザークへと傾いていくのだった・・・・・・。
テスト運転を終えたイザークは、すぐにキラの元へとやってきた。
「キラ!」
「あ、イザーク。お疲れ様」
キラの特有の柔らかい笑みが向けられる。
それにほっとして、イザークはキラの側に行く。
「どうだ?」
「うん・・・。このシステムで、イザークのデーターをあわせると、ちょっと手直しが必要っぽいね・・・」
データーを見ながら、キラはすばやい手さばきでキーを打ち込んでいく。
さすがのイザークもキラのようにはいかない。
キラの能力の高さは、自分の能力を遥かに凌駕しすぎて、プライドのプの字も感じることがないのだ。
これがアスランだったら、あと少しの差だろうから、腹が立つのだが・・・。
もちろん、キラの人格のせいでもある。
キラの優しすぎて、おっとりとしていいながらも、誰も彼もを一生懸命に精一杯受け止めようとする姿勢は、イザークの好ましいと思うところでもある。
そしてキラ特有のやわらかな笑み。
それを向けられるだけで、イザークの闘争心はいとも簡単にはがれ落ちてゆく。
そんな不思議な力がキラにはあるのだ。
しかし、そんなキラも最近は、咲いていた花が萎れるように、キラの様子がおかしかった。
戸惑いと困惑を顔に張り付かせたまま、誰とも目を合わせようとせず、仕事を増やしていってはのめり込んでいくキラに、イザークは何も相談してもらえないという苛立ちを感じつつも、自分を抑えていたのだ。
久しぶりにアスランが来て、少しは元気になったのかと思えば、体調まで崩す始末。
つい心配のあまり、怒りつけてしまったが、それ以後、無茶はしなくなったし、こうして自分と目を合わせてくれるようにもなった。
まだ、何だか悩んでいる様子ではあるが、とりあえず、忙しいからと門前払いされなくなっただけでも、イザークには嬉しかったので、もう少しだけキラを見守ってみることにしたのだ。
自分はせっかちだし、言葉がストレートな分、キラの気持ちを追い詰めてしまうかもしれない。
キラが言い出してくれるまで待つのも、自分にとってはいい勉強にもなる。
何か悩んでいるなら話してくれればいい。
どんな悩みでも、最後まで付き合うからと・・・・・・。
キラの恋人、ラクス・クラインが来ているのだと、誰かが話しているのが聞こえた。
しかも、今、ラクスはキラの部屋にいて、2人っきりだと言う。
若い男女が1つの部屋にいるとなれば、下世話な想像をする者もいる。
イザークが話を聞いてしまった男も、ちょうどそんな話をしていたのだ。
キラとラクスは恋人同士だ。
そうゆう関係であってもおかしくないし、キラも男なのだから、したくてラクスを自分の部屋に招いたのかもしれない。
しかし、イザークはイライラとした気持ちになる自分を抑えることが出来なくなっていた。
「イザーク」
「なんだっ!」
「おわっ!」
噛み付くような勢いで返事をされ、ディアッカは久しぶりに驚いた。
ここに来てから、イザークは以前のように感情を激しくあらわにすることはなくなっていたからだ。
まだアスランに対してだけは、時たま感情を荒げたりもするのだが、それでも、以前よりかは全然穏やかになったのだ。
今、ここにいるイザークは、以前と同じ、イライラとして落ち着かない感情を隠しもせずに見せている。
「どうしたんだよ。アスランでも来てたのか?」
「アスラン? なぜそこでヤツが出て来る!?」
「あ〜、いや、何かイラついているみたいだからさ」
「別にイラついてなどいない!」
「・・・・・」
充分イラついている様子のイザークに、ディアッカも困ってしまう。
まだ部屋で暴れないだけマシだが、部屋は別になったが、現在、イザークとは同居状態。
つまり、各自の部屋以外のスペースは共有している状態なのだ。
そんな所で暴れられてはたまらない。
いったい何故そんなにイラついているのか聞き出して、なんとか諌めたいディアッカは、さりげなく心当たりを言ってみる。
「誰かに何か言われた?」
「何も言われてない!」
「あ〜、んんじゃ、キラ?」
その一言で、ギロリと睨まれたことから、キラが関係しているのがわかった。
今、キラはラクスと部屋で話しているはずだ。
それのどこが気に入らないのだろうか?
「メシなら、俺らと一緒に行けばいいじゃんか」
「違う!!」
「じゃ、何?」
追求してみれば、やっとしぶしぶと言いにくそうにイザークが話し出した。
「2人が部屋にいる事で、さっき、下世話な想像をして話しているやつがいた・・・」
「おやおや・・・。んじゃ、キラの部屋に行ってみる?」
「は?」
ディアッカの言葉に、珍しくイザークが唖然とする。
潔癖なイザークはキラのことを悪く想像され怒っていたのだ。
それをキラに言えばいい。
キラはきっとそんなことを言われるようなことはしていないはずなのだから・・・。
「キラのところに行って、2人っきりで部屋にいるのは好ましくないから、みんなの見えるところにいなさい・・・って言えばいいんだろ?」
「き、貴様っ! 何を言っているのか判っているのか!?」
「もちろん、じゃ、行くぜ」
「お、おい、ディアッカ!」
戸惑っているイザークを置いて、さっさとキラの部屋に向かう。
ディアッカには、いくらキラも健康的な男子と言えども、キラとラクスの間には、恋愛感情があるようには見えないのだ。
ただの友人関係にしか見えない。
そんな2人がなぜそんなふうに言っているかと考えれば、アスランとカガリの為にだろう。
そんなことはちょっと考えれば判る事だ。
キラの部屋の前で、騒ぐイザークを無視してコールすれば、やっぱりすぐにキラが出てきた。
「あれ? イザークとディアッカじゃない。どうしたの?」
「お楽しみのところ悪い。あのな・・・」
「ディアッカ!」
「イザーク、何怒ってるの?」
事の顛末を正直に話そうとするディアッカを止めようとしているイザークの様子に、キラが戸惑っている。
「ああ、お2人さんがここに2人っきりでいるから、下世話な想像するヤツがいてさ。イザーク、怒ってんのよ」
「ディアッカ、貴様ッ!」
「あ、そうなんだ。イザーク、心配してくれたんだね」
すぐに理解したらしい、キラはイザークに笑いかける。
「だからさ、みんなが見れるテラスで話したらどう?」
「あ、そうだね。じゃあ、今出るからちょっと待ってて」
そう言い残して、キラは部屋に戻っていく。
「ほらな? こうすれば、もう変な話を聞かずに済むだろ?」
「・・・貴様の考えることにはあきれる」
怒っていても、安心しているイザークに、ディアッカは笑うしかない。
何だかんだと言っても、イザークはキラを気に入っていて、守ろうとしている時があるのだ。
今回も、そういう気持ちが表立ったのだろう。
すぐに2人が出てきて、2人はテラスへと向かった。
しかし、それでもまだ2人を見て、イザークがイライラとしている様子に、ディアッカは首をかしげるのだった・・・。
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