キラの告白から、2人の仲は完全に修復不可能となってしまった。
キラはイザークを完全に避けるようになり、鍵のかかる個室に篭って仕事をするようになって、その部屋からあまり出てこなくなってしまったのだ。
さすがのイザークも相手が表に出てこないのではどうしようもない。
キラを引きずり出すような無理やりな行動を起こすような事はせず、しばらく落ち着くまではと我慢する事にしていた。
とりあえず、キラの告白を考えることを避け、自分の仕事に集中している。
しかし、物事は1度悪い方に動くと、さらに悪い方へと流れていくものだ。
運命は、2人とって、最悪の方向へと動き出していた・・・・・・。
自分の個室で仕事をしていたキラは、必要なディスクが1枚足りない事に気付き、自分の部屋から出ると、ディスクがある部屋へと入る。
そこは、集中作業室で、すべてのデーターはここに保管されるのだ。
キラは必要なディスクの入っているケースを開け、使うディスクを1枚引き出す。
その時、するりとキラの手からディスクが零れ落ち、後ろにあった作業用のディスクの下へと滑り込んでしまった。
ディスクを拾おうとして、変なところに入ってしまったのが見え、キラは体を床に臥せて手を伸ばしかけた時、ドアが開く音がして誰かが入ってきた様子にその身をこわばらせた。
しかし、話し声で入ってきたのがマードックとディアッカだとわかり、キラは緊張を解く。
マードックとディアッカはキラがいるのに気付かず部屋に入った。
どうやら、キラと一緒で何かを取りに来たらしい。
「あったか?」
「新しいディスクはここ。いいかげん覚えてくれよなー」
「悪い、悪い、みんな同じ様に見えちまってよ。これがねぇと、データーの記録が出来ないしな」
整備士の腕は超一流でも、そう言ったことにはぜんぜん弱いマードックの言葉に、キラも笑ってしまいそうになる。
「これに記録して、キラのところに持っていくんだろ?」
「ああそうだ。しかしなぁ〜、あの2人がケンカしていると、俺たちも色々困るんだがなぁ・・・」
あの2人というのが、自分とイザークを指して言っている言葉だということはキラにもわかる。
さすがに迷惑をかけているとは思っているが、作業的には問題がないし、もともと、キラがテストパイロットと直接接しなくてもよかったのだ。
「あの2人、なんでケンカなんかしてんのかねぇ〜。・・・原因はやっぱアレか?」
「あれって?」
「ほら、イザークの顔の傷!」
マードックの言葉に、キラは首をかしげる。
ケンカの原因に、なぜイザークの顔の傷が出るのだろうか?
「いまさらだろ?」
「そうだよなぁ〜、でもよー、ほれ、キラの性格上、イザークの傷が自分のせいだって知ったら、やっぱ、気にするんじゃないか? それに、失明寸前だったってぐれー深い傷だったんだろ?」
・・・イザークの傷が自分のせい?
しかも失明するかもしれないほど深い傷だった?
聞いたこともない言葉に、キラの思考が止まる。
「最初はキラに復讐するために傷跡をわざと残してたぐらいなんだぜ。それを消したんだ。もう、イザークは気にしてないさ」
「だがな、相手はキラだからなぁ〜」
そう話しながら2人は部屋を出て行った。
後に残ったキラは、2人の会話から、会って初めの頃についていた顔の傷が自分がつけたものだということ。
それまでイザークが自分を憎んでいた事がわかり、体が震えてしまうのを止められなかった。
「僕は・・・誰も好きになっちゃいけなかったんだ・・・」
キラの瞳が濃いものへと変化していく。
深い深い闇が、キラを捕らえた瞬間だった。
あの話を聞いてしまってから、キラは以前と同じように、部屋から出て作業するようになった。
イザークとも普通に話している。
しかし精彩さに欠き、瞳の色はいつも濃い色をしていた。
キラと会話をしていても、上ずべりしているような錯覚を感じ、キラの存在感を薄くさせ、一発触発の危うさを感じさせるのだ。
そのことがイザークの心を占めていく・・・・・・。
あの時の話をいまさら蒸し返すのも・・・と、思いはしたが、このままではイザークの気持ちが落ち着かない。
キラの、何も見ていないような暗い瞳で見られるのにも限界だった。
「キラ・・・」
「何?」
「今いいか?」
仕事が終わって、着替え終わったイザークは、作業中のキラに話し掛ける。
そこには普通の表情を浮かべながらも、感情の映していないような瞳がイザークを見ていた。
「? あともう少しで終わるんだけど、今じゃないとだめ?」
「・・・わかった、もう少し待ってる」
「そう?」
するりとキラの瞳がモニターに戻される。
イザークは、そんなキラを見つめていた。
キラにキスされて告白までされたが、正直、気持ち悪いと言う感情は湧いてこなかった。
これがディアッカや、アスランなら、吐き気がするほど気持ち悪いものだっただろう。
ディアッカやアスランなどには感じるものが、なぜキラには感じないのか?
そこまで考えた時、イザークは考えるのをすぐにやめた。
自分はノーマルで、キラは男だ。
キラの気持ちを受け入れるわけにはいかない。
自分が男である限りは・・・・・・。
キラの仕事が終わり、イザークは接客室へとキラを連れてきた。
「こんな所で何の話なの?」
「・・・キラ、いまさらかもしれないが、お前の気持ちに、きちんと返事をしようと思ってな」
「返事?」
「ああ」
イザークが何を言いたいのか判らないのか、キラは不思議そうに首をかしげている。
「お前の気持ちは嬉しいが、俺はノーマルだ。受け入れる事は出来ん」
「・・・・・・」
やっとの思いで言った言葉にも、キラは不思議そうな瞳でイザークを見つめる。
言葉の意味が分からないのだろうか?
イザークが疑問を感じ始めた時、キラはほころぶ花のごとく、微笑んだ。
「ほんと、いまさらだね・・・」
「キラ・・・」
そんなキラの微笑を見て、申し訳ない気持ちがイザークに沸き起こる。
「すまない・・・」
「どうして謝るの? イザークは何も悪くないじゃない」
「いや・・・、あの時、フレイの話を持ち出すべきではなかった」
「ああ、あれ?」
キラの柔らかい微笑みが、暗く底を感じさせないような笑みに変わる。
「いいんだよ。あんなこと」
「しかし・・・」
「僕はいつだって誰かを傷つけてしまう。・・・イザークだって僕が憎かったんでしょう? 僕が君の顔に傷をつけたから」
「なっ、なぜそれを!」
焦るイザークに暗い笑みをこぼすキラは、もはや以前のキラではない。
完全に心を閉ざしてしまったのだ。
もともとキラは優しすぎて傷つきやすく、誰かを傷つける事を極端に嫌がるところがある。
そんなキラに自分がとどめを刺してしまったのだと知り、イザークは取り返しのつかない罪に呆然としてしまう。
「話はそれだけ? じゃあ、僕、自分の部屋に戻るから」
「キ、キラ!」
部屋を出て行こうとするキラの腕を掴み、自分の方に向かせたイザークは、次の瞬間、見てしまった。
哀しく、もう、どうにもならないほど絶望してしまった顔。
もはや、キラは何も求めておらず、何も信じていない。
キラは、ただ、いまを生きているだけだ。
「イザーク・・・、もう・・・、これ以上、僕を追い詰めないで」
そんな搾り出すような声に、イザークは体の自由を奪われ、掴んでいたキラの腕は、するりとはずれてキラは部屋から出て行ってしまった。
もう、キラの瞳が明るく輝く事はない。
イザークがキラを壊してしまったのだから・・・・・・。
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