どうしても手に入れたいと切望するものがあった。 けれど、望みは叶わない・・・ だから餓えた感情を剥き出しにし、持てるすべを鎖に変え、相手を身動きできないほど縛り付け、それに牙を打ち込んだ・・・・・・。
「イザーク」 「・・・なんだ?」 ジュール家で保持している別荘で、イザークは戦争後、自分の身を世間から隠していた。 母親が戦争を起こした評議会のメンバーだった為に、ジュール家も色々と微妙な立場になってしまい、しばらく落ち着くまでは親子別々に世間から身を隠すことになったのだ。 イザークは別荘の中で一番辺鄙な場所にあって、景色のいいこの場所を選んだ。 しかし、そこへは1人ではなく、もう1人を連れて・・・・・・。 「お茶をいれたんだけど、イザークも飲む?」 「いらん」 「そう・・・」 言葉はあくまでもついでのように聞こえるが、わざわざイザークのためにいれた事は、イザーク自身にもわかっていたのだが、イザークはわざと冷たく拒否する。 しかし、淋しげな声を聞いたとたん、激しい後悔に見舞われ、イザークは相手に気づかれないように細心の注意を払って唇を噛んだ。 どんなに愛しいと思っていても、全てが自分のものではないという事が、イザークを苛立たせ、冷たい態度をとらせる。 しかし、それはすぐに後悔へと変わるのだ。 戦争が終わった後、ストライク、つまりフリーダムのパイロットと1度会ってみたいと思っていたイザークは、ディアッカに相手のパイロットを呼び出させて会う事になった。 顔に傷をつけられた時は、わざわざ傷跡を残してまで激しく憎悪したものだったが、戦争が激化し、戦争が戦争ではなくなってしまった時には、すっかり恨んだ気持ちは消えてしまっていた。 だから、呼び出した時も、純粋に、MSに乗っていたパイロットが訓練された軍人ではなく、ごく普通の自分と年齢の変わらない学生だったと聞かされ、興味心から会ってみたいと思ったけだった。 その相手が、実際に自分の目の前に立つまでは・・・・・・。 フリーダムのパイロットだったキラ・ヤマトは、ディアッカの話に聞いていた通り、背は自分より結構低めで、やややせ気味。 さらさらと音を立てて風になびく髪は綺麗な茶色で、優しげな雰囲気によく合っていた。 そして、自分のすぐ目の前に立ち、透き通る深い紫水晶の瞳がイザークを捉え時・・・・・・。 すべてが狂ってしまった。 視線があった一瞬で、イザークの心のすべてを相手に持っていかれたのだ。 その時、プライドの高いイザークは、何もしないで自分の心を奪った相手を激しく憎んだ。 優しく、少し悲しげな表情で自分の名前を名乗る相手の腕を掴み。 ねじ上げ、痛がる相手の顎を空いた手で掴んで固定すると、自分の傷を見せて恨んでなどいないのに、恨み言を言い募り、償いを求めたのだ。 その行為すらイザークのプライドを傷つけるが、どうしょうもないほどの相手への執着がイザークを狂わす。 しかし、理性とプライドは何の役にも立たず、償いとして、しばらく身を隠す間、自分の身の回りの世話を求め、キラもまた、その求めをすんなりと受け入れたのだ。 それで、現在、イザークとキラはこの場所に隠れ住んでいるのだった。 しかし、求めた償いの方法は間違いだったと、イザークは激しく後悔していた。 おっとりとしていて、優しく、忍耐強いが、1度怒ると手が付けられないほど辛らつに怒る。 プログラミングの腕は一流でいるくせに、どこか抜けていて・・・・・・。 そんなアンバランスさが、キラの魅力だった。 イザークはキラの内面を知れば知るほど、キラに深くのめり込んでいった。 認めたくない想いと、深い執着がキラへの態度を冷たくさせる。 「キラ」 「ん?」 イザークは冷たくあしらったものの、はやりキラの悲しげな表情に耐えかねてキラを呼んだ。 その声に嬉しそうに振り向いたキラの手を取り、引き寄せて唇を重ねる。 「んんっ・・・」 深く激しいキスにキラがうめき、イザークはキラをそのまま押し倒した。 キラはイザークのする事に従順だ。 キスでも、それ以上でも、キラは何も言わず、抵抗もせずに受け入れた。 しかし、それはイザークが求めたからだ。 キラは『償い』として、イザークを受け入れただけに過ぎない。 『償い』 それは、キラの心を手に入れるチャンスを自ら潰す意味だったのだ。 もう、キラの心が手に入ることはない。 キラにとって、イザークの『存在は罪を償うべき存在』として刻まれているのだから・・・・・・。 それがイザークを絶望させ、渇望を呼ぶ。 イザークはキラを何度も求める。 心が手に入らないかわりに・・・・・・。 |